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外国人観光客を「通過客」から「滞在客」に変える仕掛け【実証データで見る2025年実践ガイド】
2025.07.31| タグ: ROI分析, インバウンド対策, インバウンド集客, 効果測定, 地域活性化, 外国人観光客, 滞在延長, 観光地経営, 観光戦略, 通過客対策
せっかく訪れた外国人観光客が数時間で立ち去ってしまう——。多くの観光地が直面するこの課題は、実は戦略的なアプローチで解決できます。観光庁の最新データによると、2024年の訪日外国人消費額は8.1兆円と過去最高を記録。しかし地域格差は依然として大きく、成功地域と苦戦地域の違いは「滞在時間の延長戦略」にあります。本記事では、実際に通過客を滞在客に変えた3つの成功事例と具体的な投資対効果データをもとに、今すぐ実践できる転換手法をご紹介します。
なぜ外国人観光客が「通過客」になってしまうのか
インバウンド担当者の皆さんも実感されているかもしれませんが、外国人観光客が短時間で立ち去ってしまう背景には、構造的な問題があります。私たちが各地の観光地を調査した結果、主な要因は以下の4つに集約されます。
❶ 体験価値の不明確さ
「写真を撮って終わり」という表面的な観光から脱却できていない地域が多く見られます。金沢市の調査では、外国人観光客の期待上位は「伝統工芸体験35.8%」「お茶屋体験20.2%」でしたが、実際の体験率は期待値を大きく下回っています。つまり、体験したいコンテンツがあるのに、アクセス方法がわからないという状況が発生しています。
❷ 情報提供の時間軸のズレ
多くの観光地では、到着後に情報提供を行っていますが、外国人観光客の行動パターンは日本人と大きく異なります。白馬村の事例では、外国人は1週間〜10日間の長期滞在を前提に計画を立てており、事前の詳細な情報提供が滞在延長の鍵となっています。
❸ 移動利便性の課題
「次の目的地への交通アクセスが良すぎる」という意外な問題もあります。高千穂町観光協会の分析では、近隣温泉地からの中継地点として機能している現状を把握し、「立ち寄り」から「宿泊」への転換戦略を立てました。
❹ 滞在価値の言語化不足
「なぜここに留まるべきか」を外国人目線で説明できていない地域が大半です。田辺市熊野ツーリズムビューローが成功した理由は、熊野古道を「巡礼」というキーワードで再定義し、外国人が理解しやすい価値提案を行ったことにあります。
実証データで見る成功事例:通過客を滞在客に変えた地域の戦略
事例1: 和歌山県田辺市(世界遺産活用型)
実施施策
- 外国人スタッフによる「外国人目線」でのコンテンツ再構築
- 熊野古道を「巡礼」テーマで世界的な巡礼路とブランド連携
- 独自のネット予約システム「熊野トラベル」開発・運営
- 質の高い個人旅行者にターゲットを絞った情報発信
実証された成果
外国人宿泊者数の増加
(2013年5,480人→2017年36,821人)
平均滞在日数
(国内観光地の約2倍)
出典:JNTOインバウンド事例調査レポート(2019年)
事例2: 石川県金沢市(文化体験充実型)
実施施策
- 伝統工芸体験、お茶屋体験、和装体験の戦略的配置
- 北陸新幹線開業に合わせた文化観光プログラムの強化
- 外国人観光客のニーズに基づく体験メニューの開発
- 多言語での文化解説・案内サービスの充実
実証された成果(2023年調査)
外国人観光客満足度
(「とても満足」67.7%)
1人当たり消費額
(全国平均を上回る)
再訪意向率
(リピーター創出)
出典:金沢市観光調査結果報告書(2023年)
事例3: 長野県白馬村(長期滞在受入型)
実施施策
- 多言語対応の徹底的な強化(案内表示、パンフレット等)
- 1週間〜10日間の長期滞在を前提とした受入体制整備
- 村内循環シャトルバスの運行による移動利便性向上
- 外国人観光客向けの交流拠点(古民家活用)設置
実証された成果
外国人入込者数の増加
(事業初年度実績)
外国人の平均滞在期間
(日本人の1泊2日と対照的)
出典:観光庁観光ルネサンス補助事業評価(A評価獲得)
今すぐ実践できる5つの滞在客転換手法
手法1: データドリブンなターゲット分析
実装コスト:月額10-30万円
高千穂町が実践したアンケート調査とWebアナリティクス分析を参考に、現状の「通過客」の行動パターンを可視化します。Google Analytics 4での外国人観光客の滞在時間、離脱ポイント、関心コンテンツを分析し、滞在延長のボトルネックを特定します。
実装ステップ
- 現地アンケート調査の実施(滞在時間、満足度、改善要望)
- カスタマージャーニーマップの作成
- 観光客動線の可視化と課題抽出
手法2: 外国人目線での体験価値再構築
期待効果:滞在時間2-3時間延長
田辺市の成功事例に学び、地域の観光資源を外国人が理解しやすいテーマで再定義します。単なる「見学」から「参加型体験」への転換により、滞在時間の大幅延長が期待できます。
体験価値の再構築例
- 歴史遺産 → サムライ体験、忍者体験
- 伝統工芸 → 職人との対話セッション付き制作体験
- 自然景観 → ガイド付きトレッキング、写真撮影スポット巡り
- 温泉 → 入浴作法体験、温泉と料理のペアリング
手法3: デジタル技術を活用した情報提供最適化
実装コスト:初期投資100-300万円
白馬村の多言語対応強化を参考に、ARや多言語AIチャットボットを活用した情報提供システムを構築します。現地到着前から滞在中まで、継続的な情報提供により滞在延長を促進します。
推奨デジタルツール
- 多言語対応観光アプリ(オフライン対応)
- AR技術による歴史・文化の可視化
- AIチャットボットによる24時間案内サービス
- SNS映えスポットのリアルタイム混雑情報
手法4: 滞在延長インセンティブの戦略的提供
ROI:投資の1.5-2.0倍の消費額増加
交通・宿泊・体験をパッケージ化し、滞在延長にメリットを感じられる仕組みを構築します。金沢市の高い消費額(32,767円/人)を参考に、滞在時間と消費額の相関を活用します。
インセンティブ設計例
- 2泊以上で地域交通パス無料提供
- 体験プログラム3つ以上参加で宿泊費20%割引
- 連泊滞在者限定の特別体験プログラム
- 荷物配送サービスによる移動負担軽減
手法5: リアルタイム効果測定システムの構築
測定精度:95%以上の正確性
各施策の効果を即座に把握し、改善につなげるPDCAサイクルを構築します。田辺市の6.7倍増という成果も、継続的な効果測定があってこそ実現できました。
重要測定指標(KPI)
- 平均滞在時間の変化(時間単位での計測)
- 体験プログラム参加率とリピート率
- 1人当たり消費額の推移
- 満足度とNPS(Net Promoter Score)
- SNS拡散率と口コミ評価
投資対効果(ROI)の測定と分析手法
国レベルでのベンチマーク(2024年観光庁データ)
訪日外国人消費額(過去最高)
平均滞在日数
宿泊費が消費の占める割合
ROI算出の具体的手法
ステップ1: 基準値の設定
現状の平均滞在時間、消費額、満足度を正確に把握します。金沢市の事例では、詳細なアンケート調査により外国人観光客の行動パターンを数値化しています。
ステップ2: 投資額の明確化
施策実施にかかる全コストを項目別に整理します。白馬村では「費用対効果の見極めができ、運行継続」という判断基準を設けています。
ステップ3: 成果指標の追跡
- 即効性指標:滞在時間延長率、体験参加率の向上
- 中期効果:消費額増加、リピート率向上
- 長期効果:口コミ拡散、ブランド価値向上
成功事例から見る投資回収の目安
滞在時間20%延長達成
消費額30%増加、投資回収
持続的成長とブランド確立
3段階の実装ロードマップ
Phase 1 (1-3ヶ月): 現状分析・基盤整備
- 外国人観光客の行動パターン調査・分析
- 滞在延長のボトルネック特定
- 多言語対応の基本的なインフラ整備
- 効果測定システムの導入
Phase 2 (4-8ヶ月): 核となる施策の実装
- 体験価値の再構築と新プログラム開発
- デジタル技術を活用した情報提供システム構築
- 滞在延長インセンティブの導入
- 地域事業者との連携体制強化
Phase 3 (9-12ヶ月): 効果検証・改善・拡張
- 施策効果の詳細分析と改善点の抽出
- 成功施策の他地域への横展開検討
- 持続可能な運営体制の確立
- 次期戦略の策定と実装準備
まとめ:持続可能な滞在客転換戦略の構築に向けて
外国人観光客を通過客から滞在客に転換することは、単なる観光振興にとどまらず、地域経済の持続的発展と国際的なブランド価値向上につながる重要な戦略です。
田辺市の6.7倍増、金沢市の97.1%満足度、白馬村の25%増加——これらの成功事例が示すのは、データに基づく戦略的アプローチと継続的な改善により、確実に成果を上げることができるという事実です。
重要なポイント
- 外国人目線での価値提案が滞在延長の鍵
- 投資対効果の測定により持続可能な成長を実現
- 地域の特性を活かした独自戦略の重要性
- デジタル技術と人的サービスの最適な組み合わせ
弊社では、これらの実践的なインバウンド戦略の実装支援を行っています。あなたの地域でも、データドリブンなアプローチで「通過客」を「滞在客」に変える取り組みを始めてみませんか。
