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【ニュース解説】成田空港に観光拠点「NARITA BEYOND」開設、インバウンド「素通り問題」解決へ空港会社自ら地域誘客に本格参入
2025.08.05| タグ: NARITA BEYOND, インバウンド地域誘客, インバウンド集客, プラスナリタラボ, 千葉県観光, 地域DMC, 地域経済活性化, 成田空港, 空港観光拠点, 空港連携戦略, 素通り問題, 観光ゲートウェイ
【ニュース概要】成田空港に地域誘客専用施設「NARITA BEYOND」がオープン
成田国際空港は8月1日、第1ターミナル中央ビル本館1階にインバウンド向け観光拠点「NARITA BEYOND(ナリタ ビヨンド)」をオープンしました。この施設は、成田国際空港会社(NAA)グループの地域DMC「プラスナリタラボ」が運営し、空港を利用する外国人旅行者に千葉県内および周辺地域の観光地、文化、物産品を紹介することを目的としています。
施設名の由来:「成田空港を飛び越えて(BEYOND)周辺地域に出かけて欲しい」という願いを込めて命名されました。
「NARITA BEYOND」の特徴は以下の3つの要素で構成されています:
- 五感を刺激するプロモーションスペース:ちょうちんやのれんなどで装飾し、「日本の伝統と現代が調和した」空間を演出
- 物産品自動販売機:展示されている地域特産品をその場で購入可能
- 観光パンフレットラック・休憩スペース:くつろぎながら旅行計画を立てられる環境を提供
開設記念として8月8日まで「Sake to Chiba」イベントを開催中で、成田市の鍋店や滝沢本店など県内6つの老舗酒蔵が日替わりで地酒の試飲や醸造文化の紹介を行っています。今後もこうした地域文化発信イベントを定期的に開催する予定です。
【なぜ重要か】空港利用者1,200万人超の「素通り問題」に空港会社が本格対応
この取り組みが注目される背景には、成田空港が直面する深刻な「素通り問題」があります。2025年上半期(1~6月)の成田空港インバウンド利用者数は1,222万人と開港以来最多を記録しているものの、これらの旅行者の大部分が東京などの著名な観光地に直行し、空港周辺地域への経済効果が限定的という課題が続いています。
成田空港インバウンド利用状況(2025年上半期)
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外国人利用者数:1,222万人(開港以来最多)
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年間発着枠:30万回→34万回へ拡大予定(2025年冬ダイヤから)
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地域への経済波及効果:限定的(空港周辺地域からの課題指摘)
空港周辺地域の観光関係者からは「(インバウンド増加の)恩恵が感じられない」との声が多く、NAA側も「魅力を発信する姿勢が足りなかった」と反省を表明していました。このような状況を受けて、空港会社自らが地域誘客に本格参入することになりました。
成田空港は日本最大のインバウンドゲートウェイでありながら、関西空港や他の地方空港と比較して空港周辺地域への送客機能が弱いとされてきました。関西空港では早期から「観光情報プラザ 関空まち処」を設置し、関西圏全体への誘客に取り組んできた実績があり、成田空港の今回の取り組みは遅れていた地域連携を本格化させるものと評価できます。
【見解】空港DMCモデルの先駆けとなる戦略的意義と今後の展開可能性
「NARITA BEYOND」の設立は、単なる観光案内施設の開設に留まらず、日本のインバウンド戦略における重要な転換点を示しています。特に注目すべきは、空港会社グループが地域DMC(Destination Management Company)機能を内包した「プラスナリタラボ」を設立し、送客から体験提供まで一貫したサービスチェーンを構築している点です。
企業・自治体への示唆
- 空港との戦略的連携の重要性:成田空港の取り組みは、地域の観光事業者や自治体にとって新たなパートナーシップの機会を提供します
- 体験型コンテンツの必要性:五感を刺激する展示や文化体験(酒蔵イベントなど)により、単なる情報提供を超えた価値創造を実現
- オフライン・オンライン統合戦略:物理的な拠点と観光体験予約サイトを連動させ、情報提供から予約・決済までのシームレスな体験を構築
- 定期的な文化発信の仕組み化:単発のプロモーションではなく、継続的なイベント開催による認知度向上と関係性構築
プラスナリタラボの福島健之社長は「旅の途中でふと立ち寄り、地域の文化、風景、味覚、人との出会いを楽しむ場所にしたい」と述べており、従来の観光案内所の枠を超えた「文化交流拠点」としての位置づけを明確にしています。
この取り組みで特に評価できるのは、空港という「非日常空間から日常空間への移行点」に文化体験機能を配置することで、旅行者の心理的なハードルを下げている点です。到着直後の高揚感がある状態で地域の魅力に触れることで、予定になかった地域訪問への興味を喚起する効果が期待できます。
【まとめ】インバウンド地域誘客の新モデル構築へ、他空港への波及効果に注目
成田空港の「NARITA BEYOND」開設は、日本のインバウンド戦略において以下の3つの重要な意味を持ちます。
1. 素通り問題への具体的解決策
年間1,200万人超のインバウンド利用者を地域に誘導する仕組みの確立
2. 空港DMCモデルの先駆け
空港会社主導による地域観光エコシステムの構築
3. 文化体験型誘客の実践
情報提供から体験・購買まで一貫したサービス提供
企業や自治体のインバウンド集客担当者にとって、この取り組みから学ぶべきポイントは多岐にわたります。特に重要なのは、「到達点」ではなく「通過点」にある施設や地域が、いかにして旅行者の関心を引きつけ、予定変更を促すかという課題への一つの解答を示していることです。
今後注目すべきは、この取り組みの効果測定と他空港への波及です。羽田空港、関西空港、中部空港など他の主要空港でも類似の取り組みが拡大すれば、日本全体のインバウンド地域分散効果は大幅に向上する可能性があります。
2025年の大阪・関西万博、そして2026年以降の持続的なインバウンド成長を見据える中で、成田空港の「NARITA BEYOND」は新たなインバウンド地域誘客のスタンダードモデルとなる可能性を秘めています。各地域の観光事業者や自治体は、この動向を注視し、空港との連携強化を検討する好機と捉えるべきでしょう。
