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【ニュース解説】ホテル客室単価が2倍超に急騰、インバウンド需要で「高稼働・高単価」継続—企業の宿泊予算見直しが急務
2025.07.30| タグ: インバウンド宿泊需要, インバウンド消費構造, ホテル客室単価上昇, ホテル業界動向, ホテル業界課題, ホテル稼働率, 人手不足対策, 企業出張予算, 宿泊費高騰, 自治体職員旅費, 観光庁統計, 訪日外国人消費
【ニュース概要】上場ホテル15ブランド全てで客室単価上昇、コロナ禍の2倍水準に
東京商工リサーチが7月28日に発表した「上場ビジネス・シティホテル『客室単価・稼働率』調査」によると、ホテル運営の上場13社(15ブランド)の2025年3月期の平均客室単価は1万6,679円(前年同期比12.6%増)となり、調査対象の15ブランド全てで前年同期を上回ったことが明らかになりました。
客室単価の劇的上昇
平均1万6,679円
平均7,755円
114.5%増(2倍超)
稼働率についても、15ブランド全てで70%を超え、うち9ブランドは80%以上の高稼働率を記録しています。この背景にあるのは、急激に回復・拡大するインバウンド需要です。日本政府観光局(JNTO)によると、2025年上半期の訪日外国人数は2,151万8,100人(前年同期比21.0%増)と、6カ月間で2,000万人を突破する過去最速のペースを記録しました。
特に注目すべきは客室単価の上昇率で、東急不動産HDが運営する「東急ステイ」が20.4%と最も高く、10%以上15%未満の上昇が9ブランドを占めるなど、業界全体で2桁の値上げが常態化している状況です。
【なぜ重要か】インバウンド消費構造の変化がホテル業界の価格戦略を根本的に変革
この客室単価急騰が重要な理由は、単なる価格上昇にとどまらず、日本のインバウンド市場とホテル業界の構造的変化を示しているからです。観光庁の「インバウンド消費動向調査」(2025年4-6月期)によると、訪日外国人による旅行消費額は2兆5,250億円(前年同期比18.0%増)に達し、このうち宿泊費が38.5%を占めています。
インバウンド消費における宿泊費の重要性(観光庁データ)
- 宿泊費構成比:38.5%(2025年4-6月期、前年同期より増加)
- 1人当たり宿泊費支出:約9.2万円(一般客ベース)
- 平均宿泊日数:9.4泊(前年同期比+0.9泊増加)
- 欧米系観光客の高単価傾向:英国44.4万円、イタリア39.8万円、ドイツ39.6万円
出典:観光庁「インバウンド消費動向調査」2025年4-6月期(1次速報)
企業や自治体のインバウンド集客担当者にとって特に重要なのは、この価格上昇が「需給ミスマッチ」によるものであることです。旺盛なインバウンド需要に対してホテル供給が追いつかない状況が続いており、単純な価格競争から価値提供競争への市場構造変化が起きています。
ビジネスホテル8ブランドに限定したデータでは、この傾向がより顕著に現れています。2021年同期の平均客室単価6,180円から2025年同期は1万3,930円へと7,750円(125.5%)の上昇を記録し、平均稼働率も81.0%の高水準を維持しています。
【見解】持続的成長への課題と企業・自治体が取るべき戦略的対応
今回の調査結果は、インバウンド集客に取り組む企業や自治体にとって、複数の重要な示唆を提供しています。まず認識すべきは、宿泊費の高騰が一時的現象ではなく、構造的変化である可能性が高いことです。
ホテル業界が直面する3つの構造的課題
- 人手不足の深刻化:帝国データバンク調査によると、ホテル業界の正社員人手不足割合は62.9%、非正社員はさらに高い水準
- コスト上昇圧力:人件費、エネルギーコスト、食材費等の継続的上昇により、価格転嫁が不可避
- 2025年問題:団塊の世代の高齢化により、約580万人の労働力不足が予想され、サービス業への影響は深刻
企業の出張予算担当者や自治体の職員旅費管理者は、この現実を踏まえた予算設計の見直しが急務です。従来の「宿泊費は1万円程度」という前提が通用しなくなっており、特に都市部でのビジネス利用では1.5~2倍程度の予算確保が必要になってきています。
一方で、インバウンド集客を推進する立場からは、この価格上昇トレンドを「高付加価値化の機会」として捉える視点も重要です。欧米系観光客の1人当たり支出額の高さ(英国44.4万円、ドイツ39.6万円等)は、質の高いサービスに対する支払い意欲の高さを示しており、地域の宿泊施設の収益性向上につながる可能性があります。
企業・自治体が取るべき3つの対応策
1. 予算戦略の見直し
宿泊費予算の1.5~2倍への引き上げ、早期予約による価格優位性の確保
2. 宿泊施設との関係強化
年間契約やブロック予約による安定確保、地域ホテルとの戦略的提携
3. 代替手段の多様化
民泊、長期滞在型ホテル、郊外立地施設の活用検討
【まとめ】新たなホテル市場環境下での戦略的適応が成功の鍵
今回の調査結果が示すホテル客室単価の2倍超上昇は、日本のインバウンド市場の成熟化とホテル業界の構造的変化を象徴する現象です。企業や自治体のインバウンド集客担当者にとって、この変化への適応は避けて通れない課題となっています。
短期的対応(~2025年)
- 宿泊費予算の大幅見直し
- 早期予約戦略の徹底
- 代替宿泊手段の積極活用
中長期的戦略(2026年~)
- 地域宿泊施設との戦略的提携
- 高付加価値サービスの開発支援
- 新たな宿泊形態への投資検討
特に重要なのは、この価格上昇を「コスト増」として捉えるだけでなく、「市場の高付加価値化」として積極的に活用する視点です。宿泊費が38.5%を占めるインバウンド消費構造において、地域の宿泊施設の収益性向上は、最終的に地域経済全体の活性化につながります。
2025年の大阪・関西万博、そして2026年以降の持続的なインバウンド成長を見据えた時、現在の「高稼働・高単価」トレンドは当面継続すると予想されます。企業や自治体は、この新たな市場環境を前提とした戦略立案と予算確保に早急に取り組む必要があります。
最終的に、ホテル業界の価格上昇への適応力が、インバウンド集客戦略の成否を左右する重要な要因となることは間違いありません。変化を機会として捉え、柔軟かつ戦略的な対応を進めることが求められています。
